@phdthesis{oai:mie-u.repo.nii.ac.jp:00012624, author = {岡田, 大輝}, month = {Mar}, note = {application/pdf, 20世紀後半からの微細加工技術の発展により、微小系における輸送現象は基礎物理学、応用物理学、更には工学においても重要なテーマとなってきた。中でも熱電効果、すなわち電流による熱の輸送あるいは熱流による電荷の輸送といった現象は特に関心がもたれている。これらはそれぞれPeltier 効果とSeebeck 効果と呼ばれ、熱電素子に応用されている。更に、スピン角運動量に依存した熱電効果など、より複雑な輸送問題も活発に議論されている。このとき、素子の微細化に伴って、電流や熱流などの流れが大きく揺らぐようになる。大きな揺らぎは微細素子の正確な動作や更なる微細化を妨げてしまう。しかしながら、微小系における揺らぎの影響、すなわちノイズを完全に取り除くことは極めて困難である。そのため、揺らぎが大きい条件下での輸送の性能向上に対する限界を調べ、また逆に揺らぎを利用した輸送性能の向上の可能性について検討することも重要である。これらの課題を解決するために、基礎物理学の観点から微小系の輸送と揺らぎとの間に存在する普遍法則を探る。  物理学における微小系の輸送現象に対する研究としては、まず1980年代にメゾスコピック系の物理学が発展してきた。メゾスコピックとはミクロとマクロの中間を意味し、十分に量子力学的効果が観測される10 ナノメートル程度からマイクロメートル程度までの大きさの系を指す。この系における量子力学的効果を含む輸送現象、すなわち量子輸送の理論的研究はLandauer–Büttiker 公式によって体系化された。これは散乱体を通過する電流を計算するものであるが、後に拡張されて熱流の計算にも用いられ、メゾスコピック系での熱電効果の解析が可能となった。また一方で、1990 年代より、微小系の流れを確率変数とみなしてその確率分布を見積もる完全計数統計の手法も発達してきた。確率分布からは期待値や分散といった統計量が得られるため、各流れの量を期待値、揺らぎの大きさを分散に対応付けることによって微小系に生じる流れとその揺らぎを一括して評価することができる。さらに、この確率分布から期待値と分散との関係を評価することは、主目的である輸送と揺らぎの関係を見出す手掛りとなる。例えば、完全計数統計はPoisson過程を導入することにより、ショット雑音を説明することができる。ここでショット雑音は非平衡な量子系で現れるノイズのことであり、そこから流れの量についての情報が得られることが知られている。  本研究では完全計数統計を始めとする統計解析を用い、メゾスコピック系に生じる流れに対する揺らぎの効果を調べる。本研究の目的は揺らぎの効果を含む輸送現象、特に熱電効果において普遍的な特性を見つけることにある。  本論文では、始めに導入としてトンネル接合で構成された微小な熱電素子を考える。これはPeltier素子あるいはSeebeck素子のモデルであり、熱電変換効率を移動した熱量と入力電流あるいは消費電力の比で定義する。これらの定義の下で、完全計数統計の手法によって熱電輸送に対する揺らぎの効果について議論する。このとき、議論を線形応答の範囲内に制限する。すなわち、系に生じる全ての流れが共役な熱力学的力にそれぞれ線形 に依存していることを仮定する。この線形近似によって全流れの同時確率分布は多変量Gauss 分布に置き換わり、遥動散逸定理によって多変量Gauss 分布の分散-共分散行列は系の流れを記述する輸送行列に対応する。これにより、流れの期待値や分散が容易に計算できるようになり、これらを用いて揺らぐ輸送効率の期待値を記述することができる。  次に本論では、この議論を拡張する。すなわち、複数の流れ、多端子からなる多成分の系において輸送理論に関する普遍的な特徴を見出す。系に任意の数の流れが存在する場合、輸送効率の定義が問題となってくる。そこでエントロピー生成の概念を用いる。系に生じる流れはそのエントロピー生成が正か負かによって二つのグループに分類できる。負のエントロピー生成を持つ流れは正のエントロピー生成を持つ流れによって運ばれていると解釈できることから、前者を出力流れ、後者を入力流れと分類する。ここでは、すべての入力流れのエントロピー生成の和を入力エントロピー生成と呼び、出力流れのエントロピー生成の和を出力エントロピー生成と呼ぶ。さらに輸送効率を出力エントロピー生成と入力エントロピー生成の比で定義された効率とする。そしてこの輸送効率の定義と線形応答近似の条件の下で、輸送効率の期待値が上限を持つことを示す不等式を得る。  この輸送効率の期待値に関連する不等式が、本研究の成果である。この不等式は輸送効率の期待値がCarnot 効率に相当する最大効率を決して超えることができないことを示すと共に、出力エントロピー生成の期待値と輸送効率とを同時に向上させることができない、いわゆるトレードオフ関係の存在を示唆するものである。このトレードオフ関係は熱力学的不確定性の一つであり、結論として古典確率系の議論で得られている結果を、線型輸送の範囲で量子輸送においても示すことができた。, 本文 / Division of Materials Science, Faculty of Engineering, Mie University, 93p}, school = {三重大学}, title = {量子輸送における輸送効率の揺らぎの評価}, year = {2019}, yomi = {オカダ, ヒロキ} }