@phdthesis{oai:mie-u.repo.nii.ac.jp:00012643, author = {桑原, 雅之}, month = {Mar}, note = {application/pdf, 日本列島およびその周辺には亜種の関係にあるサクラマスOncorhynchus masou masou, サツキマスOncorhynchus masouishikawae, ビワマスOncorhynchus masou subsp., タイワンマスOncorhynchus masou formosanusが生息し, 総称してサクラマス群と呼ばれている. このうちビワマスは琵琶湖固有亜種であり, その生息域はサツキマスの分布域に含まれる. これまでビワマスは他亜種と異なり, 河川残留型や初夏に河川に遡上する早期遡上群は存在しないとされてきた. また, 琵琶湖流入河川の上流にはサツキマスの河川型であるアマゴが生息するが, ビワマスは産卵期に流入河川の上流まで遡上しないことから両者の遭遇はなく, 同一水系内での両亜種の共存は可能と考えられてきた. しかし, 過去の文献の精査から琵琶湖水系にも早期遡上マスが存在し, ビワマス幼魚とアマゴが混同されていた可能性が明らかとなった. このことは, 琵琶湖水系における両亜種の共存様式が従来の学説とは異なる可能性を示唆する. そこで本研究では, 琵琶湖水系に生息するサクラマス群魚類について形態と遺伝情報を元に両亜種の関係を明らかにすると共に,ビワマスの保全に向けた提言を行なった.                                                    第1章ではビワマス幼魚とアマゴを形態的に区別するための判別式を作成し, これを用いてビワマスの産卵場付近で採集されたパー個体の亜種判別を試みた.その結果,雄雌各1個体を除き全てビワマスに判別された.また,雄の約4割は成熟していたことから,ビワマスにおいても他亜種と同様,河川残留型成熟雄の存在が確認された. 第2章では早期遡上個体について形態判別とmtDNA分析による亜種の同定を試みた. その結果, 7割がビワマス, 2割がアマゴに同定され,残りの1割は両亜種の交雑個体の可能性が示唆された.このことから, 過去の文献に見られる早期遡上マスは, ビワマスの可能性が高いことが明らかになった. 第3章では琵琶湖内に生息するビワマスと降湖型アマゴについて,mtDNA分析とAFLP分析により両亜種の交雑状況を調査した.その結果, ビワマスから降湖型アマゴへの遺伝子浸透は示唆されたが, 逆方向の遺伝子浸透はほとんど認められなかった. これは, ビワマス放流個体由来の河川残留型早熟雄と放流アマゴの雌の交雑に因るものと考えられた.また,mtDNAのハプロタイプ分析の結果から, 降湖型アマゴは醒井養鱒場産アマゴに由来する可能性が高いことが明らかになった. 第4章では琵琶湖流入河川の上流域に生息するパーについて, 第3章と同様に遺伝的集団構造の推定を行なった. その結果, ビワマス型, 放流アマゴ型( 2タイプ) , 由来不明型の計4タイプのゲノムの存在が示唆された. 由来不明型については, 分布状況等から判断して琵琶湖流入河川在来のアマゴ( 在来アマゴ) の可能性が高く, 過去にビワマスと交雑を経験した可能性が考えられた. 第1章と第2章の結果からビワマスにも河川残留型と早期遡上群の存在が明らかになった. しかしながら, ビワマスの多くは降湖型で晩期遡上を行い, 他亜種より降河時期が早く, 湖内での生活期間も長い. サケ科魚類では, 一般に河川より海域の生産性が高い高緯度地方ほど海への依存度が高いとされている. そこで, 既報のデータを用い, 琵琶湖とほぼ同緯度に位置する伊勢湾との間で基礎生産量を比較したところ, 琵琶湖は伊勢湾の約30倍であった. このことから, ビワマスは生活史多型を残しつつ, 琵琶湖への依存度を高めたことが考えられる.第3章でアマゴからビワマスへの遺伝子浸透がほとんど見られなかった理由として, ビワマスの河川残留型においては成熟雌が確認されなかった事に加え, 初夏に遡上する降湖型アマゴは堰堤等により上流への遡上が不可能なため夏期の高温期にほとんどが死亡し, 秋期に遡上するビワマス晩期遡上群とは産卵期に遭遇しないことによると考えられた.第4章で明らかとなった在来アマゴは, ビワマスとの交雑個体を含めて降湖していなかったと思われる. 以上のことから, 琵琶湖水系に生息するサクラマス群魚類の遺伝的関係ならびにビワマスの保全について以下の事が考えられる. ビワマスは過去に河川残留型や早期遡上群を介して琵琶湖流入河川の上流域で在来アマゴと交雑群を形成していたが, 主群となる晩期遡上群は在来アマゴと遺伝的交流がなく遺伝的特徴を保持してきた.しかしながら,1970 年の他水系産のアマゴの放流開始により降湖型アマゴが出現し, ビワマスと同所的に生息するようになったことから, 今後両者の間で交雑が進む危険性は極めて高い. このため, 琵琶湖固有亜種であり重要水産資源でもあるビワマスを保全していくためには, まずビワマスの種苗放流をアマゴと遭遇しない地点で行う必要がある. 併せて, 遊漁のための他水系産アマゴの放流を禁止すると共に, 放流種苗を琵琶湖水系の在来アマゴに変える必要がある.その上で,河川の連続性を回復することが重要である.加えて,ビワマスの分類学的位置付けを明らかにし, 早急に学名を決定することが肝要である., 本文/三重大学大学院生物資源学研究科, 107p}, school = {三重大学}, title = {ビワマスの保全遺伝学的研究}, year = {2019}, yomi = {クワハラ, マサユキ} }