@phdthesis{oai:mie-u.repo.nii.ac.jp:00015551, author = {榎津, 晨子}, month = {Mar}, note = {application/pdf, あくびは,口を開けて吸気を行い(フェーズ1),口開けの大きさが極大に達し,それを維持し(フェーズ2),呼気を行いながら口を閉じる(フェーズ3)という,3つの段階で定義される行動であり,ヒトを含む多くの脊椎動物で確認されている.上記の定義において,あくびは呼吸を伴うものであるとされるが,完全に水中で生活している鯨目においても,あくびのような行動(以下,あくび様行動)が観察されている.これがヒトと同様のあくびであるならば,呼吸を伴わないあくびが存在することになり,上記の定義を変更する必要がある.本研究では,進化系統が異なり,ともに完全水中適応した鯨目と海牛目(以下,完全水中適応種)においてあくび様行動を観察し,これがヒトのあくびと同様の行動であるかを調べた.そして,その結果を含め,哺乳類におけるあくびの進化学的考察を行い,完全水中適応種のあくびの特徴を検討した. 第1章では,鯨目ハクジラ亜目6種においてあくび様行動の観察を行った.まず飼育下のハンドウイルカで119時間の観察を行い,5例のあくび様行動を抽出した.それらは休息時に起こり,①口をゆっくり開け,②極大に達してそれを保ち,③素早く閉じるという3段階に分けられたことから,呼吸は伴わないが,陸上であくびをする哺乳類(以下,陸上種)のあくびと同一の行動であると考えられた.さらに24時間観察により,あくび様行動が時間単位では,不活発・活発の遷移時に起こることがわかった.また,野生下のミナミハンドウイルカでも水中映像1816時間中5例のあくび様行動がみられ,これらの発生時間は,ミナミハンドウイルカの群れの行動状態が休息や不活発から活発に遷移する時間であったことから,ミナミハンドウイルカでも陸上種のあくびと同一の行動である可能性が高く,あくび様行動が飼育下に特有の行動ではないことがわかった.飼育下の他の4種,すなわち,イロワケイルカ(49時間中6例,平均2.57秒,頻度:0.009回/個体/時間),シャチ(84.2時間中6例,平均6.11秒,頻度:0.7回/個体/時間),シロイルカ(97.4時間中6例,平均1.10秒,頻度:0.004回/個体/時間),スナメリ(126時間中5例,平均1.58秒,頻度:0.001回/個体/時間)では,あくび様行動は,いずれも主に不活発・活発の遷移時に起こっており,給餌やストレスと関連して発生したものもあった.陸上種においても、あくびは同様の状況下で起こることから,4種のあくび様行動もあくびであると考えられた. 第2章では,海牛目のジュゴンを対象に飼育下でのあくび様行動の観察を行った.20.1時間中14例(平均4.63秒,発生頻度:0.8回/個体/時間)のあくび様行動が観察された.これらも主に休息と関連していたため,陸上種のあくびと同様の行動であると考えられた.本章と前章の結果より,あくび様行動が鯨目ハクジラ亜目だけでなく海牛目にもみられ,これが陸上種のあくびと同一の行動であること,および呼吸を伴わないあくびの存在が認められた.また,あくびは,不随意で明らかな目的を持たない口開け行動で,「口をゆっくり開け,極大に達してそれを保ち,素早く閉じる」という口の開閉の仕方のみで定義できることが明らかになった. 第3章では,あくびの進化学的考察として,鯨目と海牛目に近縁な陸上種3種のあくびの観察を新たに行い,この結果に本研究で観察した全動物種と既報の計83種のデータを用いて,あくびの持続時間について解析した.飼育下の観察により,アジアゾウ(42時間中7例,平均3.35秒,頻度:0.01回/個体/時間)では活発・不活発の遷移と,カバ(29時間中5例,平均6.01秒,頻度:0.17回/個体/時間)では休息と,ケープハイラックス(35時間中5例,平均0.99秒,頻度:0.02回/個体/時間)では休息や警戒と関連してあくびが起こった.鯨目に近縁なカバでは,あくびの持続時間が鯨目より長く,かつ頻度も高かったが,海牛目に近縁なアジアゾウとケープハイラックスでは,持続時間が海牛目より短く,かつ頻度も低かった.このことから,完全水中適応があくびの持続時間や頻度に一方向の変化を与えていないと考えられた.さらに,ベイズマルチレベル系統発生モデルを用いて,あくびの持続時間と脳重量の関係を調べたところ,シャチやヒゲクジラ亜目を除く鯨目は,体重から予測される脳重量の値と脳重量の実測値の差(以下,脳重量の残差)から予測されるあくびの持続時間よりもあくびの持続時間の実測値が短かった.また,フェーズ1および3の持続時間が摂餌の際に開ける口の最大角度と正の相関を示したことから,これらが機械的なフェーズであることが考えられた.肉食陸生哺乳類では,種による口開けの大きさ(上顎と下顎のなす角度や幅)は餌サイズによって決定されるが,肉食である自身の体サイズと獲物の体サイズの比率が1に近く,口開けの大きさが大きい.一方,鯨目の多くは餌サイズが小さいため,その比率は小さくなり,さらに餌を丸呑みで摂食するため,口開けの大きさが小さい.この口開けの大きさのずれを補正して解析したところ,鯨目も陸上種のあくびの持続時間と脳重量の関係内に収まったことから,最大口開け角度が鯨目のあくびの持続時間を短くしていると考えられた.これらのことから,陸上種と完全水中適応種のあくびは同じ機序で成り立っていると考えられた.フェーズ2は,最大口開け角度と正の相関を示さなかったことから,あくびの機能にとって重要なフェーズ(機能的フェーズ)であると予想された.そこで,各フェーズの持続時間と脳重量の残差の関係を調べたところ,フェーズ2はフェーズ1および3と比べて,脳重量の残差とゆるやかな正の相関を示したことから,フェーズ2は機能的フェーズであると考えられた. 以上,本研究において,完全水中適応種における呼吸を伴わないあくびを初めて報告するとともに,従来の定義を覆し,あくびを口の開閉の仕方のみで定義できることを明らかにした.また,あくびの持続時間が種による食べ物の違いによって決定されていることが考えられた.鯨目においては,進化の過程で起こった特異な身体の構造的・生理的な変化があくびの持続時間の短縮に繋がったことを示唆した., 本文/生物資源学研究科 生物圏生命科学専攻, 244p}, school = {三重大学}, title = {完全水中適応した哺乳類のあくびに関する行動学的研究}, year = {2022}, yomi = {エノキヅ, アキコ} }